【校長室の笑う壷】
いかにも、一番七不思議らしいものだ。
職員室にはしょっちゅう入っていても、校長室なんて、
普段あまり入ることがない。
校長室の掃除当番は、6年生がやることになっていたし。
ぼくも実際お目にかかったのは、6年生になってからだった。
いろんな資料が入っている本棚の隣り、窓からはけっこう
離れた位置にその壷は置かれていた。
花を生けているわけでもなく、ただの壷。
ちょっと効果そうな感じはあった。
一番最初に見たときは、願掛けでもできそうなその壷に、
一瞬、お金でも入っていないかと、思わず覗き込んでしまった。
当然、暗くて何も見えなかったけれど、お金は入っていなさそうだった。
七不思議とされる壷なのに、特に怖い感じも受けなかったのは、よく覚えている。
ぼくが低学年のときに聞いた七不思議のうわさ。
その壷が笑い出すとか・・・。
さすがに小学校6年生ともなると、七不思議で騒ぐことはあまりなかった。
ちょっと馬鹿らしいというか、なんと言うか。
どこかで、誰かの嘘から始まったものだろうと、わかっていたろころもあるし。
誰かが、校長室から笑い声が聞こえたけれど、
入ってみるとだれもいなかかった、といううわさが一番多かったかな?
くすくすと笑う女の人の声だった、とか、男の人が低い声で笑っていたとか。
なかには、笑い声が聞こえて、校長室にはいると
壷が浮いていて笑っていた、といううわさも・・・。
これまた虚言癖のある、例の女子が言っていたらしいのだけれど・・・。
6年生になって、その壷をまじまじと見たとき、なんとなくわかってしまった。
金縁がはげかけていて、一応花柄のその壷。
模様の具合から、見る角度によっては、人が笑っているかのように見えるのだ。
たぶん、昔は華やかに飾られていたのだろうが、
その模様に気が付いた生徒たちが騒ぎ出すので、いつの間にか、
一番人の出入りが少ない校長室に追いやられたのではなかろうか?
あんなに大きな壷なのに、校長室の、しかも一番目につきにくい位置におかれて、
ひとり笑いたくもなってしまうのかもしれないなぁ。